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批評・コラム

ロコドルっ!松江のライブハウスから7年島根発アイドル「Flood Lyrics」とは

2019年に山陰のライブハウスから始まり、JAしまねや島根県企業局とも協働。現体制4人へ受け継がれる楽曲と地域活動を読み解きます。

Flood Lyricsの2026年現体制メンバー、左からZom、Rem、Sun、Leo

島根にアイドルはいるのか。

いる。

Flood Lyrics(フラッドリリックス) は、松江と米子のライブハウスを活動基盤に、2019年から続いているアイドルグループだ。

現在のメンバーはZom、Sun、Leo、Remの4人。地域PRだけではなく、対バンや主催公演を重ね、愛情、皮肉、見栄、生きづらさまで楽曲にしてきた。

01

観光PRより先に、ライブハウスがあった

Flood Lyricsを運営するAZTiCは、松江AZTiC canovaと米子AZTiC laughsを展開し、アーティストのマネジメントや音源制作、プロモーションも手掛けている。

Flood Lyricsは、自治体が観光PRだけを目的に立ち上げたグループではない。公式プロフィール が示す活動の中心は、山陰から県外へ広げてきたライブにある。

地域イベントへの出演は活動の一部であり、その前に対バン、主催公演、生誕祭、遠征というライブアイドルの日常がある。地方アイドルという言葉から、ご当地ソング中心の活動を想像すると、実像とは少しずれる。

02

愛情も、皮肉も、見栄も歌う

公式サイトで公開されている楽曲群 は、一つの明るい物語へきれいに収まらない。

「君は発泡スチロールガール」は軽快なアイドルソングの形を取りながら、見た目や作られた印象が先行することへの違和感を扱う。「太陽と月」は、自分らしさを見失う苦しさと、自分のままでいられる場所を探す感情へ視線を向ける。

かわいさや前向きさだけでなく、皮肉、孤独、退屈、自己演出への疑問も残す。地域の魅力を伝える役割と、観光パンフレットには載らない若者の感情を歌う役割が、同じグループの中に並んでいる。

03

JAしまね公式アンバサダーと
「FURUSATO POP」

Flood Lyricsの地域活動で、特に大きなものがJAしまねとの取り組みだ。

JAしまねの公式発表 によると、2021年に公式アンバサダーとしてイメージソング「FURUSATO POP」を担当。同年4月、益田市で開かれた島根ぶどうの初出荷式で初披露した。

2021年当時のFlood Lyricsの公式アンバサダー写真
2021年の島根ぶどう初出荷式でFURUSATO POPを初披露する当時のFlood Lyrics

写真と映像に写るのは2021年当時の体制で、現在のメンバー構成とは異なる。

同曲は地名や名産品を並べるだけでなく、自分で道を選び、ふるさとを離れる人も見送る視点を持つ。地元に残ることだけを正解にせず、離れても土地を思う気持ちを扱う点が、県外へ遠征して山陰へ戻るグループの活動と重なる。

04

島根県企業局の仕事を
若い世代へ伝える

Flood Lyricsは、島根県企業局の広報事業にも起用された。企業局は、電気、工業用水道、水道、宅地造成などを担う地方公営企業である。

島根県の公表資料 によると、若い世代へ事業を知ってもらうため、Flood Lyricsを起用してイメージソング「誰かのヒーロー」とPR動画を制作。若手職員もメロディー作りに参加した。

イベントで数曲披露するだけではなく、楽曲と映像を通じて電気や水道の仕事を伝えるところまで担当した。地方アイドルが行政の宣伝物に登場するだけでなく、専門的な仕事を若い世代へ運ぶ媒介になった事例である。

05

活動範囲は「島根」よりも「山陰」

Flood Lyricsは島根発のアイドルだが、活動を島根県内だけで完結させてはいない。

主な活動場所は、島根県松江市の松江AZTiC canovaと、鳥取県米子市の米子AZTiC laughs。県境を越えて二つのライブハウスを行き来し、そこから県外へ遠征する。

公式スケジュール にも山陰の通常公演と県外出演が並ぶ。都道府県で分類すれば「島根県のアイドル」になるが、実際の活動は行政上の県境より、ライブハウス同士のつながりと移動経路によって作られている。

06

メンバーが変わっても
名前と楽曲が残る

Flood Lyricsは、結成時のメンバーがそのまま活動を続けているグループではない。

公式プロフィールの活動歴 では、2022年にTenが卒業。2023年にKoiとSunが加入し、2024年にKoi、2025年にUltが卒業した。2026年4月にLeoとRemが加わり、Zom、Sun、Leo、Remの4人体制となっている。

Flood Lyrics Zomの公式プロフィール写真Zom
Flood Lyrics Sunの公式プロフィール写真Sun
Flood Lyrics Leoの公式プロフィール写真Leo
Flood Lyrics Remの公式プロフィール写真Rem

地方で活動するグループにとって、進学、就職、転居を含むメンバー交代は大きな課題になる。それでも同じ名前と楽曲を残しながら体制を作り直してきた。

継承されているのは結成時の顔ぶれではない。楽曲、ライブ会場、AZTiCによる運営、地域との仕事、そして山陰で長くライブを見てきた観客である。

07

現在の4人が、何を新しく残すのか

JAしまねや島根県企業局との代表的な仕事は、以前の体制で作られた。現在の4人にとっては、その実績と楽曲を引き継ぐだけでなく、現体制を象徴する新しい曲や地域との関係を作れるかが次の焦点になる。

東京で有名になることだけを成功と考えれば、地方での活動は準備期間になってしまう。しかしFlood Lyricsは、東京へ出る前の途中段階として島根にいるわけではない。

松江と米子に活動場所があり、そこから県外へ出て、再び山陰へ戻る。その往復自体がグループの活動になっている。

島根には、地域を明るく宣伝するだけではなく、愛情も、皮肉も、見栄も、生きづらさも歌うライブアイドルがいる。メンバーが変わっても活動を継承してきた7年間は、地方でグループを続けるために必要なのが、知名度だけではなく、戻れる会場と受け継げる仕組みであることを示している。